11月21日の日記「千夜一夜物語」

相変わらず、夜遅くまで元気いっぱいで眠ってくれないひなさん。
最近の寝かしつけ対策としては、電気を消して布団に入ってもらうという基本に立ち返り、定番ではありますがお話を聞かせてあげることにしています。

できるだけひなさんの興味をひくために「どんなお話がいい?」と、リクエストを求めると、やはりマイブーム中の「トーマス」「ウルトラマン」などのお話をせがまれます。そこで自分が知っているテレビのエピソードやビデオや絵本で見聞きしたお話を思い出し思い出し話して聞かせるのです。ストーリーもセリフまわしもいい加減ではあるものの、とりあえずひなさんは喜んで聞いてくれました。

しかし、それも毎晩のように続くと手持ちのネタもなくなってきます。すると新しい刺激を求めるひなさんから登場人物として自分を出演させろとか、みきさんも出せとか、次第にあれこれと注文がつくようになりました。そのうちお題を考えるのも面倒くさくなってきたらしく、「きのこ」とか「ひよこ」とか「こめつぶ」とかいかにも思いつきのぞんざいなテーマをリクエストをされるようになりました。こうなると全くのオリジナルの物語をアドリブで創作して勝負しなければいけません。

毎夜繰り返される親と子の真剣勝負。と言う訳で、今回はそんな苦労の末に生み出された物語たちのさわりの部分だけご紹介しましょう。

その1:「きのこ」
おばあちゃんのおうちに遊びにいったひなたくん。いい天気なのでお庭で遊びます。おばあちゃんちの庭は芝生の緑がきれい。ひなたくんは思わず寝転がって芝生を目の前で見てみました。すると緑の葉っぱのすきまに小さなきのこがいくつも生えているのを見つけました。
「なんだろう?」
ひなたくんがおそるおそる手をのばして手をさわってみると「ポンッ」ときのこはひなたくんの背より大きくなりました。ためしにほかのきのこにもさわるってみると、「ポン」「ポン」「ポンッ」と、次々に大きくなっていきます。こうしてあっという間にきのこの林の中に迷い込んでしまったひなたくんは…。

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その2:「こめつぶ」
お母さんのつくったおいしい晩ご飯を食べ終わったひなたくん。手を合わせて「ごちそうさま」を言おうとしたら、おちゃわんの中にこめつぶがひとつだけ残っているのに気がつきました。
「おこめにはおこめのかみさまがすんでるから、のこさずにたべなくちゃ」
前にお母さんに言われたことをおもいだしたひなたくんは。そのこめつぶをゆびでつまんでパクリ! するとおちゃわんの中から、7人のお米の神様が飛び出しました。びっくりするひなたくんに一人目のお米の神様が言いました。
「ひなたくん、お米を残さずに食べてくれてありがとう。お礼になでなでさせておくれ」
ひなたくんの頭をなでなですると一人目の神様はうれしそうに笑いながら消えてしまいました。すると今度は二人目の神様が…。

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その3:「ひよこ」
朝、目を覚ましたひなたくん。ベッドのまわりにはもう誰もいません。お父さんはお仕事にいったのでしょう。おかあさんは朝ごはんのじゅんびかな。ひなたくんは「よいしょ」とおきあがりおかあさんを探しました。でも台所にもテレビの部屋にもおかあさんの姿はありません。
「どこにいったのかな?」
うち中を探し回ったひなたくんが最後にトイレのドアを開けると、トイレの水の中に小さくてまん丸なひよこが落ちているのを見つけました。
「たいへん! おかあさんがひよこになっちゃった!」 
いそいでひなたくんは台所から食パンをもってきました。
「食べて、食べて! 大きくなって!」 
ひなたくんは「ご飯をいっぱい食べると大きくなれるよ」というお父さんの話を思い出したのです。大きくなればひよこはおかあさんに戻るかもしれない。ひなたくんの手からパンを食べたひよこは、むくむくっと少し大きいまん丸なひよこになりました。まだご飯が足りないのかな。ひなたくんは食べるものを探して台所に走りました…。

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その4:「ひなたくんふとんに入る」
夜も遅くなりました、ひなたくんももう眠らなければいけない時間です。歯を磨き、パジャマに着替えてふとんに入るひなたくん。ふとんを頭までかぶると真っ暗になって何もみえなくなります。ところが、なかなか眠れないひなたくんは、しかたなく真っ暗な闇をじっと見つめてみました。すると、とおくにほんのりと灯りがともっているのが見えました。
「なんだろう?」
ひなたくんはその灯りに向かって歩いていきました。それは3本のろうそくに火がつけられたおたんじょうびのケーキ。そこで、ひなたくんはじぶんのおたんじょうびのときにしたように「ハッピーバースデイ」の歌をうたい、ろうそくを「ふうっ」と吹き消しました。すると、ふとんの中はまた真っ暗になってしまいました…

 

 

それぞれ実際の話はまだまだ続くのですが、大体はこのあたりからどんどん物語のつじつまが合わなくなっていき、最後には強引に「めでたしめでたし」という形でお話を終わらせるか、お話をしながらいつの間にか睡魔に襲われて逆にひなさんに寝かしつけられるかいずれかになるので、とても覚えてはいられないのです。生まれては夢の中へ消えてゆくいくつものぞんざいなストーリーたち。って書くとなんかかっこいいね(そうか?)。

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さて、そんなある日のこと。いつものように即興のお話でひなさんを寝かしつけようとしていたものの、例によってついウトウトとしてしまいました。

どれくらい眠っていたのでしょうか。

ふと目を覚ますと驚いたことに物語はまだ続いていました。大声を出していたらしくノドがヒリヒリしますが、ひなさんはまだ起きているのでそれほど時間は経っていないのかもしれません。しかし眠る前に話していた内容とは登場人物も場面も全く変わっています。動揺を隠しつついつものように強引に話を展開させ「めでたしめでたし」で終わらせたものの、眠っている間に一体どんな話をしていたのか、全く思い出すことができません。

人は眠っているときに深層心理の扉が開いて、それが夢の形で表層意識に知覚されるといいます。ひなさんは無意識に語られる物語を通して僕の深層心理を垣間見てしまったのかもしれません。

再び深層心理の彼方に消えていったその物語が、実は僕のダークサイドに秘められた業のようなモノが織りなす恐ろしいストーリーで、ひなさんに暗いトラウマを植え付けたりしていなかったことを祈るばかりです。

 

 

          

 

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