10月21日の日記「プレゼント」

人影もなく、うっそうとした雑草が生い茂る広場に寂しげに立ち並ぶ子ども用の遊具。何人の立ち入りをも拒絶するかのように、無骨な建材で封じられたトイレ。

  

これもバブルという時代に踊らされた人々のうたかたの夢のあと…。

ではなくて。

ここは来年の春にウチの近所にオープンする予定の新しい公園です。整備中ということで仕上げの草刈もされず、トイレの立ち入りも禁じられていて、あたかも廃墟のような姿となっておるのです。

という訳で今日は、ひなさんと航ちゃんを連れて、開園前のこの公園にこっそり忍び込んで遊ぶことにしました。


いくぞ!

ところで、サッカーのグラウンドほどの広さがあるこの公園、見た目からは分りませんが実は他にはない特徴があるのです。それは遊具の種類や配置、樹木の選定など、あちらこちらに地元の子どもたちのアイデアが盛り込まれていることです。

この公園の計画づくりが動きだしたのは今から3年ほど前。ちょうど、ひなさんが生まれた頃のことでした。施主はウチのマンションも含めたこのあたり一帯の宅地開発を行っている事業者さんで、この新しい街で一番大きなこの公園を整備するにあたって、地域の人たちにより愛着をもってもらうために、メインユーザーとなる地元の子どもたちから整備に向けたアイデアを寄せてもらう会議を立ち上げたのでした。

当時の僕は小中学生を対象とした自然体験プログラムの企画をいくつか手がけていたことから(これまで仕事の話題には触れてきませんでしたがそういう事もしてた時期があったんです。今はしてませんけど)、施主さんからの依頼を受けてこの仕事のお手伝いをすることになったのです。

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そして、地元の小学校にプロジェクトへの参加を呼びかけたところ、ひでちゃんがデザインしたシンボルキャラの人気もあって、高学年の児童約30名が参加してくれました。その年の年末から3月まで何度も何度も話し合いの場を重ねました。


ひでちゃんデザインによる
公園の王様と王女様

会議の席ではまず、子どもと大人は同じ立場で参加することと、どんな意見でも必ず尊重しあうことをみんなで約束しました。そして、予定地の現場調査で周りの風景や自然の様子を確認したり、模型をつかったプラン作りなどを重ねた結果、「思い切り走り回れる広場と、小鳥のさえずりが聞こえる森がある公園」という方向性が導き出されました。

この考えを実現するために、自然観察の専門家や造園屋さんを招いてこの街に棲んでいる鳥や虫のことや、鳥が好む実がなる樹木のことを学ぶ勉強会も開きながら、植える木の種類を選び、植える場所の配置を考えました。

出来上がろうとしているこの公園の真ん中に立ち、耳をすますと確かに鳥たちの声がサラウンドで聞こえてきます。みんなの願いどおり、たくさんの鳥たちが集まっているようですが…


まさかダチョウまで集まってくるとは
思いませんでした。

タネを明かすと、このダチョウは公園に隣接する牧場で飼育しているものです。計画づくりに先立って、牧場主さんに挨拶にいったところ、ぜひ協力したいということで、人気のあるダチョウの施設を公園の広場からよく見える場所にもってきてくれたのです。

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遊具は自然豊かな公園のイメージに合わせて、木製のアスレチック風のものが中心。話し合いの中で一番要望の高かった「ロープウエイ」にひなさん早速夢中です。


気に入ってくれたのはうれしいのけど、
航ちゃんと順番かわってくれよ。

中央のプレイジムだけ普通の公園のようにカラフルなのは、公園の専門家の人から「小さな子どもも来る場所だから、明るい原色で情操を育ませる遊具も必要」とのアドバイスをいただいたからです。子どもたちに木製遊具へのこだわりがあったので随分迷いましたが、まっしぐらに走りよって滑り台遊びをする航ちゃんの姿を見ると、選択は間違いではなかったと思えます。


1歳児でも安心
ありがとう航ちゃん

公園の一番奥の高台には展望台。子どもたちのアイデアを実現するために施主さんが苦心して予算をやりくりしてくれました。木漏れ日が気持ちのよい雑木林の中の階段を登ると、新しいまちに向かって眺望が開け、遠くには僕たちが住むマンションも見えます。

  

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こんな風にこの公園は子どもたちと施主さん、近所の人、専門家の人たちなど、プロジェクトに参加したたくさんの人たちの思いが込められています。子どもたちはメインユーザーとして期待以上に素晴らしい提案を寄せてくれましたし、施主さんをはじめとする大人たちは、そのアイデアを本当に真剣に受け止め、実現にむけた最大限の努力をしてくださいました。

僕がこの計画に関わったのは全く偶然ですが(施主さんは僕がこの町内の住民だということを知りませんでした)、今は廃墟みたいだけど、完成間近となった姿を見ると、この仕事に参加できてよかったと思います。しかもこの公園はひなさんの遊びのホームグラウンドになる場所なのです。

今日、10月21日に3歳の誕生日を迎えたひなさんが来年の春、幼稚園で仲良くなった新しい友だちと、この新しい公園で遊んでくれるのだろうと思うと楽しい気持ちになります。でも、それまでは本当は入っちゃいけない場所だから、誰にもみつからないようにこっそり帰ろうね。


こっそりね。

 

 

(追記)
それにしても残念なのは、計画に参加してくれた小学生たちが、建設工事に3年もかけているウチにみんな卒業してしまったこと。もうアスレチックで遊んだりとかしてくれないだろうなあ。資金の調達とかいろいろやむを得ない大人の事情があったんだよ。ごめんよう。君たちの分までウチの子が遊ばせてもらうからねえ。

 

 

          

 

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