今よりも小さい頃から、夜眠るときに添い寝する人の耳をいじるという変なクセがあったひなさん。その感触が妙に落ち着くのか、最近では昼間おきている間にも周りにいる人の耳を触りにくるようになってしまったのですが、耳に手をのばす前には
「みみ、さわっていい?」
と、あらかじめ断りを入れるのがひなさんなりの作法のようです。いつものワガママぶりとは打って変わった礼儀よさには何か訳でもあるのでしょうか。
で、この日の夜。例によって深夜まで大暴れのひなさんを寝かしつけるために、電気を消して眠ったフリをしておりました。独り言を言ったり、歌ったりして遊んでいたひなさんですが、少し眠くなったのか「さわっていい?」と、僕の耳に手を伸ばしてきて、いつものようにしばらくいじくりまわしておりました。しかし、今ひとつ眠気がこないらしく退屈そうにしていると思ったら、突然…。
「みみ、たべていい?」
えっ! 食べる? 何? 食べるって。あっ!
…かじられました。左耳。でもここで寝たふりをやめたらひなさんはきっと元気を取り戻してしまいます。やむを得ず息を殺して耐えておりますと、「こっちも」と、今度は右耳をかじられました。ひなさんの吐息で生温かい右耳と、ひなさんの唾液でぬれてスースーする左耳。とりあえずそれで満足したのか、耳から口を離すとひなさんは眠りについていきました。
かじるといっても、ちょっぴり歯を立てるくらいの程度だったのが不幸中の幸い。ひなさんも最低限の常識は身に付けているようです。朝起きて鏡に映った耳のない自分の姿に、ゾーっとして体が青くなるような事態にならなくて、本当によかったです。
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