5月27日の日記「ばあちゃん」

ばあちゃんが倒れたという電話が実家からあったのは昨日。久しぶりに早めに帰宅でき、晩ごはんをさあいただきましょうと、食卓におかずが並びかけた時でした。ばあちゃんというのは、このサイトにも時々登場したことがある僕の母の母、来年卒寿のひなさんのひいおばあちゃんのことです。

長く元気で一人暮らしをしてきたばあちゃんですが、さすがに90才も近くなると何かと不自由なこともできてきたため、ついこの間から叔母さん夫婦が同居を始めた矢先のことでした。3人で夕食を食べた後、急に発作のような状態になり、救急車で病院に運ばれたということでした。

「みきちゃんとひなちゃんはいいから、まずあんただけでも来なさい」

という母ちゃんの声は重く、暗く、最悪の事態が頭をよぎります。事実、後で聞いた話では、ばあちゃんはこのところ体の調子が思わしくなかったらしく、母ちゃんももしかしたら最後になるかも知れないと半ば覚悟して電話をかけていたのだそうです。

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病院につくとほどなく母の姉妹弟(四女一男)が集まってきました。しばらくして職場の宴会が始まった瞬間、目の前のごちそうをさあいただきましょう、と箸をとった瞬間同じように母ちゃんから呼び出しの電話を受けた兄も駆けつけてきました。先に到着していた叔父によると、心臓や血圧には異常はなく、脳内に原因がある可能性があるため、CT検査を受けているとのことでした。

大きな病気をしたことがなく、社交的で、フォークダンスや大正琴、グラウンドゴルフなど、いつも新しい趣味をもっていたばあちゃんです。時々、仕事でばあちゃんの趣味仲間という人と出会うことがありますが、みな社交辞令でなく「あんな風に年をとりたい」と話してくれます。

うちの母ちゃんを含め、子どもたちもみな近くに住んでいることから、高齢者の一人暮らしといっても安心していられたのも事実です。しかし、同居を始めてからの毎日、ある種異常なほどのハイテンションで、話しを始めたら止まらないほどご機嫌のばあちゃんの様子を間近で見た叔母さんは、これまでの一人暮らしはそれほど寂しかったのかと、涙が止まらなかったと言います。

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やがて検査が終わり、ばあちゃんはそのまま入院することになりました。CTスキャンでは特に異常はなく、さらに詳しい検査の結果を待たねば詳しい原因はわからないものの、意識も取り戻してきているとの知らせ。みんな胸をなでおろしながら、病室に向かうと、すでに目を覚まし、なるほど噂のハイテンションでマシンガントークを繰り広げるばあちゃんがいました。

話しかけてみると、耳も目もはっきりしている様子。意識が戻ったばかりであるせいか、辻褄の合わない発言もありましたが、母ちゃんが僕を指差して「誰だかわかる?」と尋ねると、「馬鹿にしないの!」と笑い、兄が「それだけ話ができれば大丈夫だよ」と言うと、「あんた医者でもないのに何がわかるの!」と返します。いや、マジでそれだけしゃべることができれば一安心だよ。

どこまでも止まらないばあちゃんの話に、どうしたものかと枕元で相槌をうっていると、いきなり真顔になって、

「あんたねえ、家に奥さんと子どもがいて、帰るとあったかいご飯の用意ができているなんて、これ以上の幸せはないよ」

などと、長年一人暮らしをしてきた病気の高齢者が泣かせることを言うもんだから、親戚一同やお医者さんや看護婦さんの面前で、僕ちょっぴり危なかったです。

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一夜明けた今日も、仕事帰りにばあちゃんの顔を見に行きました。たまたま病室に診察にきていた主治医の先生によると、MRIの結果も脳内には大きな異常は認められず、高齢者特有の症状というわけでもないとの事。入院は長引くかもしれないが、投薬治療を続ければ、精神的にも落ち着き退院する事も可能であると話してくれました。

思えば、ばあちゃんはひなさんが成人するのを見届けた上で長寿世界一になる予定の人ですから、こんなところで躓いてもらっては困るわけです。早いところ元気になってほしいものです。また、ひなさん連れて遊びにいくからさ。

 

 

          

 

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